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真夜中に...想い出ばなしと…だらりんちょ

#146 浴衣。

『浴衣』

 

 

二度目のデート以降、ボクらは何度か会っていた。

とはいえ、俺は夏に向けて部活とバンドが忙しすぎてたし、マミも大学受験に向けて本格的に準備を始めていた。

だからデートらしいデートではなく、ただお互いの近況を報告するような感じだったんだ。

 

そんな夏の入り口、8月に入ってスグ電話が俺を呼び出したんだ。

 

 

ーはい、電話代わりました。

 ーあ、タカシ君?

 

ーマミから電話なんて珍しいね

 ーうん...忙しかった?

 

ーうん。忙しかったね!

  ちょっとイジワルしてみた(笑)

 

 

ーゴメン...

 ー嘘だよ!大丈夫!

 

ーもう!タカシ君ったら...あのね、七夕の時って忙しいんだよね?

 ーう~ん...パレードに出るから...まぁ、忙しいっちゃー忙しいかな

 

ーそうだよね...

  少し沈んだトーンになる

 

ーどうして?

 ーうん、あのね、私、七夕の時は少し時間出来そうだから...出来れば一緒にお祭り見たいなぁって思ったの。

 

ーちょっと待ってね。

  カバンの中のプリントを探す。

  そこには当日のスケジュールが書いてあるはずだ。

 

 

ーあのね、最終日の8日ならパレードは18:30に解散予定だからさ、それからなら大丈夫だよ

 ー本当?一緒に行ってくれる?

 

ーうん。控え場所が市民会館だからさ...

 ーじゃぁ、そこまで行くね。

 

マミには珍しく高揚しているのが伝わってくる。

 

 

ーねぇ...その日は制服なの?

 ーううん、私服だよ。なんで?

 

ーうん、私、何を着ていこうかなぁって思ってたんだ。

 ー服?

 

ーうん。お祭りでしょ...夏だし、どうしようかなぁ?って...ねぇ、どう思う?

 ー何でもいいんじゃないかな?って言ったら困るんだろうなw...夏まつり=浴衣じゃない?

 

マミは「浴衣」のキーワードを俺に言わせたかった。

誘導尋問に成功して小さく左手を握りしめた...らしい(笑)

 

ーねぇ、タカシ君は私の浴衣姿見たい?

  ー見たいか見たくないかで言えば見たいかな

 

ーうん。ちょっと母に相談する...ねぇ、浴衣じゃなかったらゴメンね。

 

 

_______________________

 

 

その日も暑かった。

街は年に一度の大きな祭り「仙台七夕

俺はその中でも一番大きなイベント”動く七夕”というパレードに出演していたんだ。

 

午後四時にスタートするんだけど、俺らはその1時間前にスタンバイでユニフォームに着替える。

これが...年中同じタイプだからこの季節にはたまらなく暑かったんだ。

 

パレードには何千...何万というもの凄い数の観客がいてね

まぁまぁの緊張感で望むんだけど、楽器の重さと暑さでヘトヘト...途中からは正直、観客の事なんか目に入らなくなるんだ...

実際に同級生はパレード中に倒れたし(笑)

 

そんな地獄のパレードも2時間弱で終わってね、午後6時過ぎには控え場所に戻ってくるの。

 

そして解散前のミーティング。

入口にはメンバーそれぞれの家族や彼女、友達が集まってくる。

 

その中に浴衣姿のマミを見つけた。

彼女は小さく手を振りながら恥ずかしそうにはにかんだ。

 

明日から10日間ほど部活は休みになり、次は遠征と大会へ向けた合宿練習を本格的に始めるから覚悟しておけ!的な話が終わって解散となった。

 

 

マミの所へ駆け寄った

 

ーゴメン、お待たせ。

 ーううん、お疲れ様。...初めて見たけど、めっちゃ体育会系なんだね...

 

ーあはは、そうだね。確かに厳しい感じかも(笑)

 ーね、パレード見てたよ。

 

ーえ?マジで?どの辺りで?気づかなかった...

 ーこのスグ近くでだよ。なんか...いつものタカシ君じゃないんだねw...何か、凛々しかったよ!

 

そう言いながらボクの前に一歩踏み出す

マミの髪の毛の香りがフワァっとボクを包み込む

 

ー浴衣、着てきてくれたんだね。

  ボクはマミから更に1歩引いて悪戯に上から下まで見下ろした。

 

ーねぇ!...はずかしいよ!...でもどう?タカシ君が見たいって言ってくれたから頑張って着てきたよ。

 

ーあのねぇ...カワイイね

 ーちょっ...もう!カワイイとかヤメてよ!...でもありがとう。

 

 

こんな特別な夜は胸が騒ぐね

こんな感じでしばらく歩いて段々と混み始める。

七夕のメイン会場が近づいたからだね

 

 

マミが小さな声で

ーねぇ...はぐれるとイヤだから手を繋いでくれる?

 

 

ーこれではぐれるか?大丈夫だよ!

  またイジワルを言ってみる。

 

ーえ...うん...大丈夫かな...

  ちょっとガッカリ顔の彼女。

 

ー嘘だよ!

ボクは笑って照れ隠しをしながら手をつないだんだ。

 

 

 

綺麗な七夕飾りが並ぶアーケード通り

 

 

ーねぇ、これ見てよ!綺麗だね...ねぇ、これ見てよ!

 ーえ?あ、うん、すごいね!

 

相づちをうちながらボクは七夕飾りを見てはいなかった。

浴衣から見えるマミのうなじを見てドキドキしていたよ。

 

つないだ手が少し汗ばんでいる。

気温のせいかな?

それとも二人の温度が上がってきているから?

 

 

ーなぁ、マミ…

 ーなーに?お腹空いた?

 

ーいや、まぁ、そうだなお腹は空いてるな。

 ーじゃぁ、何か一緒に食べよう。

 

 

 

ーなぁ...

 ーなーに?

 

ー俺たちさ、初めて手を繋いだな。

 ーえ?あ、うん...ダメだった?

 

ーいや、ぜんぜん...な、何食べようか?

 

何となく食べ物の相談になって、ボク等は小さなカフェに入って簡単な夕食を済ませた。

再び、七夕飾りの中に身を寄せる二人

手はつないでなかった。

 

ーねぇ...タカシ君

 ーうん?どーした?

 

ーねぇ...

 ーどーした?何でそんなに甘えた声?

 

ー手...

 ーあ、うん。

 

再び繋いだ手。

マミの手がギュッと力をこめる

 

マミの気持ちには気が付いていた。

ちゃんとその気持ちに答えるべきだと思ってはいるけど、少しだけ躊躇してたのも事実

だけど、必要と思ってくれる事はやっぱり嬉しく思えたよ。

 

浴衣姿だからって事もあったけど

そうじゃない気持ちも折り混ざってボクたちは...

 

ゆっくり

ゆっくり

 

七夕飾りの下を歩いた。

時々目が合って...チョットだけ気まずい雰囲気になったり、照れ合ったり...甘酸っぱい18の夏物語り。

 

 

帰り際の事

 

 

ーねぇ、タカシ君...

 ーうん?なに?

 

ー何かあった?たまに遠い目してたけど。

 ーゴメンね…実は今日はさ友達の命日だったんだ

 

ーえ?私と会ってていいの?

 ー俺さ、ガキんちょだから…アイツ死んだって認めたくないんだよね

 

 

少しだけ胸の内を話した

 

 

ータカシ君…痛かったね。

 ーあぁ、抜けない棘だよね

 

ーねぇ…私、何かできるかな?

 ーもちろん!今夜ありがとう。とても素敵な時間だったよ!

 

ーまた近いうちに会えるかな?

 ーうん。いいよ...あ、17日にライブやるから良かったら見においでよ。

 

ーえ、うん...行こうかな♪

 ーうんうん、オザキもイシダも来るしさ

 

ーうん...タカシ君に会えるよね?

 ーうん、俺は一日中いるからいつでも大丈夫だよ!

 

笑顔の上に笑顔を重ねるマミ

 

ーねぇ、その前にも会える?

 ーOK、じゃぁ、電話するけどいいかな?

 

少しだけ間があいて、ふと時計を見るともう22時をまわっていた。

 

ーうん...地下鉄の改札まで一緒に来てくれる?

 ーいいよ。ねぇ、どうした?随分甘える感じだねw

 

ーイジワル言わないでよ...帰りたくないんだから

 

浴衣姿の女の子と祭りに行くって事...実は初めてだったんだ

キミは気が付いていたかな?

 

改札口...何度か振り向きながら手を振るマミの姿が見えなくなるまで見送って、ボクは家路についた。