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真夜中に...想い出ばなしと…だらりんちょ

#056 あなた私の安心だから

『あなたは私の安心だから。』

 

 

 ーもしもし?

  ーうん...私です...

 

 ーうん。どうしたの?

  ーあの...今度の土曜日か日曜日に逢えないかな?

 

 ー明後日は部活とバイトだからなぁ...日曜なら大丈夫だよ。

  ーじゃぁ、日曜日に時間下さい。

 

 

日曜日の昼下がり

 

人がいない淋しい公園の木々は狂おしい程の新緑。

優しい風に揺らされる度に何とも心地良い葉音を立てていた。

 

 

 ーゴメンね...急に部活とかバイトで疲れてるでしょ?

  ーううん、大丈夫。それよりどうしたの?

 

 ーうん...あまり詳しくは話せない...上手く話せないけどね...なんか疲れちゃって

  ーうん

 

 ......

 

 ー話にくい?

  ーあのね...あのね...話したい事たくさんあるの...それなのにどうしてかな?上手く言葉が出てこないの...

 

 ......

 

 ーあのね......あのね...

  ーうん。

 

 ......

 

 

沈黙の時間

 

相変わらず優しい風が吹き抜けていく

ボクは何だか穏やかな気持ちに包まれていたんだ。

 

一瞬、風が止んだ時、ボクは空を見上げながら彼女に話しかけた。

 

 

 ー今日は温かくて穏やかだね。風も気持ち良いから...ねぇ、ゆっくりでいいんじゃない?沈黙...俺といる時は怖がらないでいいと思うよ。

 

  ーあのね...

 

 

彼女は頷きながらポツリ、ポツリ語り始めた。

小さな胸の少女の大きな悩みの原因

そしてその原因の一端は自分にあると話し始めた。

 

 

  ー私、ちょっと病気だったのね。

 ーえ?なんの?

 

  ー私、甲状腺の病気で去年は半年以上入院してたの

 ーそんな風には見えなかったよ...今もつらいの?

 

  ーううん。もう今は平気だよ...それにほら喉の周り見て

 

 

彼女はロングヘアを掻き揚げてボクを見つめる。

 

 

 ーあぁ、確かに腫れているように見えるけど...

  ーうん。だから髪の毛出来るだけおろしているの

 

 ーでも、良くなってきてるんでしょ?

  ー良くなったけど、まだいろいろあるから...

 

 ーそっか...でも...大事な事だし、大事に思われてるだろうし...

  ーうん...でもねケンカの原因になってるし...私のせいだし...

 

 

言葉に詰まりながら...

涙を浮かべながら...

勇気を出してボクに話してくれて...少しまた沈黙が続いた。 

 

これ以上話を深く掘り下げたら、どうにか出来るのだろうか?

17才だったボクにはさっぱりわからなかった。

 

出逢って1ヶ月のボクにこんなにも深い話をするのはどうしてかな?

そっちの疑問の方が大きかったのは事実。

 

 

 ーどうして、そんな話を俺に?

  ーわかんないけど...たぶん...あなたは私の安心だからかな

 

 

優しい風が彼女の髪をなびかせる

 

 

 ー安心?

  ーうん。何でも話せる存在っていうか...秘密を教えられる気がする。

 

 ーまだ出逢って1ヶ月しか経ってないよ?

  ーわかってる...でも、たぶんあなたになら出逢って3日目でも話せてたわ

 

 

思ってもみなかった事を言われた。

このボクが誰かの役に立っているなんて思いもしなかったよ。

誰かを安心させる事なんてボクには皆無だと思っていた。

 

彼女にとっては何気なく話した言葉だったとしても嬉しかった。

なんだろ...一瞬でこの人のは信じていいんだと思った瞬間だったんだ

 

 

 ーそっか...なんか嬉しいな。人から自分が安心だなんて言われた事なかったから

  ーそうなの?みんな見る目ないね

 

 

きっと彼女は話したい事...殆ど話せてなかったんだと思う。

それでも彼女には笑顔が戻っていた。

 

ボクは彼女の事を守りたいって初めて思ったのがこの時だったんだ

何があっても最後の一人になっても彼女の味方でありたいと思っていたんだ

 

誰もいない工業地帯の小さな公園

優しい風が二人の心を揺らしてた...新緑の美しい日曜日の午後。

 

 

 

 

 

all right [1990]

 

 

 大丈夫 

 キミが決めた事なら何も話さなくていいよ 

 

 大丈夫 

 その手を離さないからね

 

 大丈夫 

 疲れた羽をゆっくりと休めて眠って 

 

 大丈夫 

 ボクはいつでも傍にいるから