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真夜中に...想い出ばなしと…だらりんちょ

#086 ブルゾンの悲劇

『ブルゾンの悲劇!!』

 

 

 

それは12月に入って最初の日曜日

 

 

 ー 今から遊びに行ってもいい?

   ー いいよ。

 

 

ボクが大好きな彼女は髪が長くて、感受性が強いステキな娘。

 

 

ロマンチストでボクによく詩を書いてくれてた。

思わせぶりな詩はボクをドキドキさせて

突き放す詩は胸をギュッと締め付けられて...

 

 

彼女は妙な所がコドモで妙な所がオトナで...

不思議でつかみ所がないあの娘が大好きでした。

 

 

呼び鈴が鳴る

 

 

   ー いらっしゃい

 ー うん。さむいよ...

 

 

   ー 自転車?早く入りなよ。ココア?紅茶?

 ー あ、ココアかな...お邪魔します☆

 

 

   ー わかった。俺の部屋で待ってて、飲み物持って行くから

 ー うん。

 

 

特に何をする訳でもなく...

ダラダラとお喋りをするだけの日曜日の午後。

 

 

 ー そういえばね、この間ナオちゃんとご飯食べに行ったお店よかったから今度一緒に行こうよ

   ー おう、いいね...ってか、何食べるお店なの?

 

 

 ー あのね、回転お好み焼き。

   ー は?寿司じゃなくて?お好み焼き?どういう事?

 

 

 ー そうのなの...面白いでしょ...具が回ってて自分で選んで作るの

   ー 回るネタで値段が変わるって...確かに面白いね

 

 

 ー でねでね...

 

 

 

そんな会話も途絶えがちでふと気付くと彼女はすっかり眠っていたのです。

寒い大地を温めていた太陽が帰り支度を始めて少しした頃にふと、目を覚ました彼女

 

 

 

 ー あ、そろそろ帰らなくちゃ...ゴメン寝ちゃったね

   ー うん、なんか気持ち良さそうに眠ってたから放っておいたよ(笑)

 

 

 ー 外、寒そうね...

   ー アウターってそれだけだよね?

 

 

 ー うん...来る時は温かったから...

   ー じゃぁ、良かったら俺のブルゾン着ていってよ

 

 

 ー え?いいの?大事にしてるやつでしょ?

   ー そうだけど、温かいからこれ

 

 

彼女に渡したブルゾン...それはボクがアルバイトをして買った物

高校生だったボクには3万円という大金...痛かったけど頑張ってゲットしたアイテムだった

 

 

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次の日曜日も彼女はやって来た

 

 

 ー これ、ありがとう...温かくて助かったよ!

   ー うん、良かったよ。風邪引かなかった?

 

 

 ー うん、大丈夫だよ♪

   ー あれ?何か綺麗になっている?

 

 

 ー あ、うん

   ー え?クリーニング出してくれたの?わざわざ、そんな事しなくて良かったのに

 

 

ボクがそう話したら彼女は急にうつむいた。

 

 

   ー どうした?

 ー やっぱり...洗濯機で洗ったらまずいよね?

 

 

   ー うん。ほら、タグにドライクリーニングのマーク書いてるでしょ?

 ー うん...

 

 

   ー え?え?もしかして...まさか...これ...

 

 

彼女はうつむいたまま泣きそうな声でこう告げたのです。

 

 

 ー ごめんなさい...洗濯機で洗った...

   ー せ、せ、せ、洗濯機??マジで?

 

 

ボクは怒る事を通り越えてしまい、放心状態でした(笑)

 

彼女は目をウルウルさせてボクを見つめている...

ボクはそのウルウルした瞳に弱いんだ

 

 

   ー うん、大丈夫だよ。ほら、こんなに綺麗になったんだもん。ありがとう

 ー 本当に?怒っていない?

 

 

   ー 怒っていないよ。安心してね

 ー ありがとう。

 

 

全てが天然だった彼女

そこがいい所だったのだろうね

 

 

あの時の15歳のガキと17歳のバカはボクの心の中で止まったままです。

きっと彼女はもうあの時の時間を忘れているだろう。

 

 

1990年 冬 もう幾つ寝たらお正月直前の甘く懐かしい出来事です。