『ミサンガ』
ーね、明日の朝なんだけど、電車いつもより1本早く乗ってくれない?
ー別にいいけど、どうして?
ーちょっと会いたいんだよんね
ーわかった。7時15分の電車に乗るよ。
ー私、階段の所で待ってるから...じゃ、ちょっとまだ用事あるから明日ね
翌朝、ボクはいつもより2本早い電車に乗ったんだ。
毎朝乗る電車と少しだけ雰囲気が違う...なんだろう?この空気感は...
駅に着いて、待ち合わせの地下道の入口へ行くと彼女は既に待っていた。
ーあ、おはよう♪
一人占め。
いつもの笑顔は今朝もボクだけのもの。
ーごめんね。朝から...
ーううん、そうれよりどうしたの?
ーあのね...もうすぐアメリカでしょ?
ーそうだね...明後日出発だね。
ボクは部活の海外遠征で明後日からアメリカに行く予定になっていた。
ーしばらく逢えないんでしょ?
ーまぁ、10日間くらい...あぁ、でも帰ってきてスグに神戸いくから2週間ちょいかな?
ーうん。半月もあるね...ね、左手出して
ーうん?こう?
彼女は自分の制服のポケットから青と白を基調とした紐のような物を取り出して、ボクの手首に巻き始めた。
ーこれね”ミサンガ”っていうの。
ーミサンガ?なに?ブレスレット的みたいな感じ?
ーう~ん...お守りかな
ーアメリカ行きのお守り?
ーそれだけじゃないよ。安全にアメリカ着くようにと、アメリカの大会でいい結果が出るようにと...あと、神戸で全国大会でしょ。それに...いろいろ
そう言いながら彼女はキツく結んだ。
ーえ?これ取れなくなるの?
ーそうだよ。ミサンガは結び目が切れると願いが叶うんだよ。
ーえ?俺願い事言わなかったよ!
ー大丈夫、私が代わりに願いながら作ったし、結んだから。
ーどんな願い?
ーうん、いろいろ...ね、このミサンガ私とお揃いだからね!
そう言いながら彼女は再びボクの左手首を強く握りしめた。
はい、出来上がりっていう仕草にしては少し長く手首を押さえている。
ー今、握ってくれた時に俺も願い事してみた。
ーえ?どんなこと?
ーそりゃぁ...内緒だよね
ーそっか...わかった。
ーあのさ、今日の夕方も逢いたいけど、練習何時に終わるかわからないんだよな...
ーわかってる。大丈夫。それよりミサンガ着けてて平気?
ーもちろん
ーじゃぁ、学校に行かなきゃ...
こうしてボク等は少しの間離ればなれになった。