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真夜中に...想い出ばなしと…だらりんちょ

#087 10円玉の落書き

『10円玉の落書き』

 

 

ーねぇ、屋上に行こうよ。

   その屈託のない笑顔は今日もボクだけの為に輝いていた。

 

ーいいけど...何しに行くの?

   ボクは知っている

 

ーえ?何しにって...お話しにだよ

 ーだったらSS行った方が景色よくない?

   ボクはとっくに気が付いている

 

ーあぁ...人、多いからイヤ!二人きりがいいじゃん!あ、借りたブルゾン今度の日曜日に持っていくね!

 ーえ?あぁ、うん。...じゃぁ、上行こうか

   そう、キミはボクと二人きりになりたいんだ

   それはね、ボクも同じ気持ちなのさ

 

大きな駅の中。

目立つ事がなく人通りの少ない階段を上がって行く

 

今日は天気がいいけれど...やっぱり12月は寒い

屋上に着いたけど、外に出るのはやめよう

 

少し広めの踊り場

小さな窪みの先には小さな窓

そこから見える大きな街

 

手前は落書きだらけ

 

ーねぇ、ここって10円玉で削れるかな?

 ーまぁ...たぶん?わかんないや...ってか、ダメだろ普通

 

ーまぁ、ダメだよね

 

ボクは後からキミを見つめている

気が付いている?キミを見つめているんだよ。

 

だけど、彼女の目線は落書きだらけの壁 

 

小さな窓の向こう

夕日が彼女を照らしている。 

逆光でまぶしかった。 

 

ーなにこれ?読めないんだけど...ってか意味わかんないわ

 

無邪気な彼女から目線を離す事できなかった。 

こんなにも誰かを愛おしいと思った事はこれまでなかったんだ 

 

ーねぇ、ちょっとコレ見てみ...

 

彼女は振り向きながら話しかけてきた。

だけど、ボクがあまりにも真顔でキミを見つめているもんだから...

 

すこし困った顔をして...

 

ーねぇ、何見てるのよ

 ー何って...お前じゃん

 

ーバカ!恥ずかしいでしょ!こっち見ないで

 ーなんだよ!好きな人を見ていたいって思うのは普通だろ?

 

甘酸っぱいやり取りが新鮮だったな。

照れてる彼女の笑顔が急に真顔になる。 

 

ーねぇ、今日っていう日を覚えておく事って出来るかな?...10年くらいは覚えておけるかな?

 

唐突な質問にボクは答えをスグに出せなかった。

 

ーど、どうかな?何かハプニングとかあれば覚えておく事は出来るだろうけど...どう思う?

 ー質問を質問で返さないでよ...そんな答えならいらないよ...バカ!

 

チョットだけ悲しい瞳

欲しかった答えをボクは出してあげられなかったんだろうな...

 

ーバ..バカって言う事ないだろうよ,,,何かあれば覚えてられるんじゃないかな?って言ったじゃん

 ーあ、うん...マジで怒らないでよ...そうだよね...実際、私もわかんないな...10年後も覚えておく事って難しいかもね

 

小さな窓の先を見つめるキミ

少しの沈黙...何を切り出せばいいのかわからなかったよ。

 

ピクっとしたキミ...何か思いついた?

 

ーねぇ、10円玉ある?貸してくれない?

 ーあぁ、あるよ

 

さっきまで覗き込んでいた小さな窓の窪みに向かって何かしている

狭いスペースだから手の先で何をしているのかわからなかった

 

ボクは何かに夢中になっている彼女を黙って見守る事しかできなかったよ。

 

ーできたーーーーっ!

 

満面の笑みで振り返るとすかさず

 

ーさ、帰ろう!

 

ーえ?何してたの?見せてよ

 ーダメだって...

 

ーはぁ?見せろよ!

 ーじゃぁ、『10年後も今日を覚えておく』って約束してね

 

ーわかった。約束するよ

 

ボクは彼女の手の先に目線を落とした。

え?落書き?ってか、彫ってんじゃん...消えないじゃん...

見つかったらヤバいヤツじゃん...一応監視カメラあるのに...

 

 

"1990.12.8.sat Takashiのバカ!........のハンタイ"

 

 

ーマジ?俺の名前...

 ー私、悪いことしちゃったよね♪

 

ーおまっ...ロックだねぇ

 ーこれなら2人揃って10年は覚えてられるよね♪

 

10円玉の落書きはこうして出来上がった。