『好きって言って』
野外ライブの次の日は別の意味で大変だった。
わりと早い時間にナオヤから電話で起こされたんだ。
何事?と思ったらジュンが肺に穴を開けて入院したとの報告
そう言えば、アイツ昨日ずっと胸が痛いって言ってたな…
とりあえず明日、ナオヤと一緒に病院へ行く事にした。
そんなバタバタの後はバイトだった。
もう15:30を廻った雑踏の街
俺は待ち合わせた駅の改札口へ急ぐ
昨日決めた待ち合わせは午後3時
きっとマミは時間通りに来ていたはずだ。
既に30分も待たせている。
ーごめん!
慌てて走り寄る
ハァハァ…ハァハァ…
ーマジ、ごめん…バイト…店長に頼み込まれて30分急に延長されたんだ
ーううん、大丈夫。お仕事お疲れ様
怒っている様子はない。
ーお腹空いてる?
ーえ?う~ん…
ーごめん、遅れたお詫びに何かご馳走させてよ
俺はなんとかその場を取り繕おうとしてた
マミは少し考えて…
ーう~ん…ご飯はまだいいかな。それより散歩しようよ。
え?散歩?
予想だにしなかった返答に若干戸惑ってしまった。
ーい、いいけど…どこに行く?
彼女はニコッと微笑んで
ー二人で公園とか行った事ないでしょ?だから公園がいい
少し遠くを見つめて彼女は続け様に
ー少し遠いけど、あの公園がいいな。いい?
ーうん。いいよ。じゃぁ、行こうか
俺たちは連絡通路を通り駅の反対方向へ歩き出す。
街の再開発で広く綺麗になった歩道を歩く。
公園に向かう道すがら、昨日のライブで起きたハプニングやジュンの入院騒ぎ
それと今年の春、花見でオザキが制服のまま泥酔しちゃった話をした
マミは元々真面目な子だったから
俺の話が別の世界の話のように思えて…ちょっと引いちゃってるところもあったけど楽しそうに笑いながら聴いてくれていた。
ーなぁ、公園着いたけど…どうする?
ー散歩。
ーお、おう…
ーそれからね…お話し聞いてくれる?
そう言うとマミは少し黙って深呼吸をした。
そうして意を結したのか俺の手を握ったんだ。
ーねぇ、タカシくんは私の事どう思ってる?
ーどうって...?
ー私たち付きっている。でいいのかな?
ーうん?急にどうしたの?
ーあのね、昨日オザキくんに2人は付き合っているの?って聞かれたの。でも私たち曖昧だったでしょ。だからタカシくん来た時に「うん」って言ってって言ったの。
ーそっか…そうだったんだね
ー私ね…
彼女は一瞬ためらったけど、意を決して言葉を紡ぎ出した
ーね、タカシくん…私の事好き?
ーうん。す…好きだよ。
少しだけ言葉を選んで続けた。
ーマミはさ俺とは少し違う世界に生きてるのかな?って思っていたんだ。なんつーか真面目じゃん(笑)だけど出会った日から俺のことたくさん知ろうとしてくれて、優しくしてくれて…マミになら何でも話ていいんだろうって思った…日を重ねるにつれ大切な人なんだって思うようになってたよ
ーねぇ、タカシくん…私を見て好きって言って
ーいや…俺…そんな…
ーねぇ、タカシくん…私を見て好きって言って!!
大きな噴水の前
夏の西日が2人を金色に照らし染める。
俺はマミの瞳を見つめた。
ー俺、マミのこと大好きだよ
マミが急に目を瞑り、顔を伏せる。
少しだけ肩を震わせるマミ
ーふふ、面と向かって言うのはダメだよ
ー何でだよ?私を見てって言ったのは誰だよw
ーだって…嬉しいけど恥ずかしいからタカシ君の顔見れないよ
ーいや、俺だって照れちゃうよ。
ーうん。ちょっとカワイイって思ったw
ーもう...恥ずかしいから何か食べて帰ろうよ。お腹すいた!
ーうん。ねぇ駅まで手を繋いでくれる?
駅まであと3ブロック
少しだけ会話の無いまま交差点の赤信号に立ち止まる2人
マミはぎゅっと手を強く握って甘える”ねぇ…もう1回だけ私の事好きって言って”
駅まであと1ブロック
普通に歩けば間に合うのにわざとゆっくり歩いたて立ち止まる交差点の赤信号
繋いだ手を離せばマミは少し不安な表情を浮かべるけど、お構いなしに正面向いて”大好きだよ”って言ったんだ。
マミはまた目を瞑り、顔を伏せて小さく肩を震わせた。
自分で言えって言ったくせにw