『一駅歩こう』
ーよかった…いてくれた
コンサートホールがあるビルの1階
数多いエレベータ前、終演後は観客と出演者でごった返している
あまり影にならないところで、でも目立たない場所でマミを待っていた。
エレベーターは忙しそうい上に行っては降りてくる。
扉が開くたびに大勢の高校生や大人たちが出てくる中、マミが大きな花束抱えて降りてきた。
ー手紙に待っててって書いてたのはマミだろ
ーうん…なんか、七夕の時と逆だね
ーそうだな、制服だけどな(笑)さて、駅まで一緒に帰ろう...あ、お腹空いてる?
ーうん…空いてる
ーじゃぁ、何か食べる?
ーうん…
駅に向かって歩き出したけどマミの表情がいつもと少し違う気がした。
コンサートの感想はどうだった?とか聞かれると思って答えも用意してたけど…ほとんど口を開かない
ーどうしたの?疲れちゃった?
ーううん、そうじゃないけど…
マミは少し戸惑った表情をしつつ話を続けた。
ーあのね、これからも補講とか模擬テストが続くから…あんまり会うことが出来なくなるから…タカシくんと出来るだけ一緒にいたいなぁって思ってたの。
ーうん
ーなぁ、俺さ、親と話をして東京の音楽の専門学校へ進んでもいいって言われたんだよ。
ーえ?就職から変えたの?
ーまだ決まりじゃ無いけど、急に母親が行きたい所へ行かせたいって言ってくれたんだ
ーじゃぁ、離れちゃうね…
次の言葉が見つからない2人の間に沈黙が支配する。
ポツリ、ポツリと短い会話をしながら俺たちは駅近くのダイナーへ
軽い食事を済ませて帰る頃にマミはまた寂しい顔をして”まだ帰りたくないな”って言う
その表情を笑顔に変えたいから俺は”一駅歩こうか?”って言う
マミは俺の提案に即答で”うん”と頷いて腕を絡める。
と、同時に彼女が持つ大きな花束のフィルムが俺の顔に当たったんだ
ーうっ…
ーあ、ごめん!
その様子がおかしかったのか、マミがいつもの笑顔に戻った。
ーいつもの表情に戻ったね♪その花束、俺が持つから貸して
ーえ?いいの?
俺は大きな花束を右手に持つ。
絡んだマミの腕が少しだけ力が入る
ーところで…今日のコンサートどうだった?
ーうん、良い感じだったじゃん…ずーっとマミだけを見てたよ。
ーやだ…
ーダメだった?
ーそうじゃないけど…そんな事言われると恥ずかしくなっちゃうよ…
今日のコンサートの話をしているうちに1駅先までやってきた。
ーねぇ…タカシくん、もう1駅歩いても良い?
ーいいよ。このまま歩こう
1駅越えて…俺たちは地下鉄の経路から外れた。
大きな橋を渡り大きな川を越える。
国道沿いだから人通りが少なく、車だけが多い
ーなぁ、この先...駅がないけどどうする?
ーうん…このまま歩いててもいい?
こうして1時間近く歩いてマミの自宅付近までやってきた。
住宅街の一角、公園の向かい側がマミの自宅
ー私の家、そこだから…
ーうん。じゃぁ、またね…
ーね、タカシくん…
ーうん?
ー頑張れって言って…ううん、好きだよって言って…そしてギュッてして
ーうん...マミなら頑張れるよ!頑張れ!ずーーっと応援しているよ!
マミが自宅の玄関へ入っていく様子を確認してから俺は地下鉄の駅に向かった。
一駅歩こうが結果的に6キロも歩いた
この日を境に俺はマミへの思いをさらに強くなった気がした。
だけど、それは…結果としてマミを追い詰めてしまうことになっていったんだ