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真夜中に...想い出ばなしと…だらりんちょ

#088 Gerbera

Gerbera』

 

 

 ーねぇ、クリスマスって何しているの?部活?

  ーえっと…バイトだね

 

 ー何時まで?

  ーえっと…18:00までだね

 

 ーそっかぁ...

  ーどうしたの?

 

 ーうん、バイト終わってから会える?

  ーもちろんいいよ。ドコか遊びに行く?

 

 ー家に行ってもいい?

  ーいいけど…帰り電車面倒じゃない?自転車で来る?

 

 ー泊まる...って言ったら迷惑かな?

  ーえ?…ええ?…い、いや…いいけど…あ、でも俺、親には言わなきゃね…ってかさ、そっちは大丈夫なの?

 

 ーうん。大丈夫OKもらってるよ。じゃぁ、バイト終わる時間にお店行くね。

 

 

それが3日前の会話

 

今日はクリスマス・イブ

街中が鮮やかに彩られて人々はどこか浮かれているように見える。

 

俺は朝からアルバイト。

いつも通りハンバーガーを焼きまくっていた。

 

上がりまで後30分。と、いう所で早坂店長から時間の延長を打診されたが丁重に断った。

今日の最後の仕事はゴミを出す事。デパートの中にある店だからちょっと面倒

 

店の外に彼女の姿。

それを最初に見つけたのは同級生で同じバイトをしていた木津谷君だった。

 

 ーあれ?彼女来てんじゃん

 

隣にいた店長もつられて視線を彼女へ向ける。

 

 ーあ!何だよ…お前も幸せ組かよ…そりゃ延長断るよな。寒いから中で待たせなよ。ココアおごってあげる

 

ゴミ出し作業を一旦やめて彼女を迎えに出た。

 

 ーもう少しで上がりだから中で待っててよ…寒いし

  ーいいの?

 

 ーもちろんだよ。俺、ゴミ出してくるよ

 

彼女は遠慮気味に店内の端の席に座った。

店長はすかさず彼女にココアを差し出した。

 

 ーハイ、これお店のおごりね♪…ってか、あいつの時給から引いておく(笑)

  ーあ、でも…あ、引くんですね(笑)じゃぁ、遠慮なく頂きます!

 

俺は最後の作業を終わらせて、バックヤードへ

 

 ーお疲れ!お前、可愛い彼女じゃねーか!大切にしろよ!…ところでもうヤッたのか?

  ーなっ!まだヤッてませんよ!店長!なんつー話…

 

 ー”まだ”って事はヤル気はあるんだな(笑)今夜はクリスマス・イブだしな

  ーいや、でも、俺…

 

 ー冗談だよ!彼女待ってるんだから早く帰れ!

 

くわえタバコで売り上げを計算する店長に挨拶を済ませて俺は店内にいる彼女を迎えに行った。

 

 ーお待たせ!行こうか?

  ーうん。ココアごちそうさま。

 

 ーお先します。

 

まだ働いてる木津谷君をはじめ、仲間達のちょっとだけ痛い視線を背中に感じてボクらは外に出た

 

 

 ーうゎ…寒っ…ねぇ今日、本当に家に泊まるの?

  ーダメ?

 

 ーいや、ダメじゃないけどさ

  ーもう、泊まるって言ってきたもん

 

 

  ー寒いからさ、ポケット貸して

 

あの時と一緒。

彼女はボクのコートのポケットに手を入れる。

繋いだ手はお互いにまだ少しだけ温かい。

 

 

ーあのさ、ちょっと行きたい所あるんだけどいいかな?

 ーうん、いいよ。どこに行くの?

 

ーうん、ちょっとね

 

駅とは反対方向へキラキラと飾り付けられた通りを歩く。

大きなプレゼントを抱えて家族の元へ急ぎ帰る人

寄り添い幸せを振り撒くように歩く恋人同士

 

どこかみんな浮かれていた。

 

 

 

ーちょっと用事済ませてくるからここで待ってて

 ーえ?うん…わかった。

 

ボクは彼女を目的の場所から少しだけ離れた場所においた。

 

 

ーあの、予約してた者ですけど…

 ーはーい…ご注文通り、こんな感じにしてみたけど…

 

 

 

数分後に彼女の元に戻った

 

 

ーごめん!待たせたね

 ーううん、大丈夫だよ…え?何隠してるの?

 

ーはい、これ!クリスマスプレゼント…になるかな?

 

 

周りに大勢の人がいるのも気にしないで差し出しのは彼女が大好きなガーベラの花束

いつも彼女との会話の端々に花がおり混じられていたんだ。

 

そこで、クリスマスには花束を贈ろって決めたんだけど、誰かに花束を贈る事って初めてだったから

どう用意していいかわからず…数日前に花屋さんに相談していたんだ

 

 

 ーえーーーっ!綺麗だねぇ…ありがとう!

ー気に入ってくれた?

 

 ーもちろんだよぉ~ それに一番好きなピンクのガーベラとかすみ草の組み合わせだなんてYou!完璧だよ

 

 

さすが花屋さん。

相談して良かった(笑)

 

 

ーお腹空いたから家に帰るでいいかい?

 ーうん。いこっ

 

駅に着いて、同じホームにいる。

ちょっと変な感じだった。

 

彼女が乗る電車のホームにはいつも一緒に行っていたけど、今日はボクが乗る電車のホーム

 

 

 ークリスマス・ケーキいかがですか?

 ーそこの高校生カップル!クリスマス・ケーキいかがですか?

 

聞き覚えのある声で確実にボクらに向かって呼び込んでいる

 

振り向くとそこでケーキを売っていたのはnaokoだった。

 

 ーあれ?naoちゃんバイトなの?

  ーそうだよ。もうすぐ終わるから一緒に帰ろうよ。

 

 ーあ…うん…でも、ごめん。今日ねタカシ君の家に行くの

  ーえ?泊まるってこと?

 

 ーうん…

  ーそっかそっか!わかった!頑張ってねw

 

 

数分してホームに滑り込んできた電車に乗り込んだ。

発車までは5,6分ある。

”あっ”と急に何かを思い出したかのように彼女は降りてnaokoの元に行って何かを話す。

うんうんと頷いて電車のボクに向かって両手で親指を掲げる

 

戻ってきた彼女に”なーに?”と聞いても女同士の話だよって言うだけで教えてもらえなかった。

座席に座った彼女はずっとガーベラを見つめていたから車内ではあまり会話をしなかった。

 

 

 

この夜、ボクらは初めて夜を越えた。

 

 

 

 

母親が死ぬほど心配してたから別々の部屋でだけどw